石屋のないしょ話

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室町時代のトイレ

東福寺は、東山三十六峰の一つ、月輪山麓に位置し、京都駅の東南にある臨済宗の寺院です。 紅葉の名所として名高く、「通天橋」という橋から眺める庭の紅葉は目を見張る美しさです。 鎌倉時代半ばの一二三六(嘉禎二)年、当時の権力者・九条道家により創建されました。 今月は東福寺の重要文化財についてお話します。 

ところで、この東福寺には通天橋の紅葉の他に、もう一つ日本最古の貴重な文化財があるのをご存知でしょうか?  それは、なんと全国唯一の室町時代のトイレです。 山門を入ってすぐ左側にある切妻造りの禅宗様式の建築物で、外観からはトイレとは思えないつくりです。 これは、東福寺で修行した禅僧たちのトイレで「東司とうす」と呼ばれました。 「東司」は禅堂の東側にあるトイレのことを言い、西側にある場合は「西浄せいちん」と呼びました。 室町時代の禅寺では、トイレで用を足すことも修行の一つで、厳しい作法が定められていたと言われています。 

東司の中に入ると、中央に広間があり、左右に陶器製の三六個の壺が楡二列に計七二個並び、その奥に手洗い所があります。 仕切りはいっさい無く、僧侶達は一○○人くらいが生前と並んで、丸見えのなかで用を足したのです。 そこから、この東司を通称「百雪隠」とも言います。 建築内部に、当時の様子を描いた絵と説明書きが展示されています。 その説明によると、トイレの厳格な作法とは次のようなものです。

まず、着ている法衣を脱いで丁寧にたたみ、黄色の土団子と水桶を持って厠に上がります。 厠の前でわらじに履き替え、両足で台を踏み、うずくまって用を足します。 この時、決して周りを汚したり、笑ったり、歌ったり、唾を吐いたりしてはいけません。 用が済んだら、紙かヘラで拭き、右手で水を散らさないように流して壺を洗います。 手洗い所に戻ったら、手を三度洗います。 ついで、灰で三度、サイカチ(植物の葉)で一度洗い、その後改めて水や湯で手を洗います。 いかに清潔さに神経をつかっていたかがよくわかります。 清潔にすることは、功徳を積む修行の一つであったそうです。 禅の精神を見習い、私達もトイレは清潔に使うことを心掛けましょう。 

石屋のないしょ話でした・・・。