石屋のないしょ話

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一条戻橋

皆さんは「一条戻橋」をご存知でしょうか? 一条戻橋は、堀川通りの一条にかかっている小さな橋のことです。 今月は、「一条戻橋」についてお話します。 

その昔、その橋に愛宕山の鬼が出没し人々を悩ませておりましたが、ある日、源頼光の四天王の一人渡辺綱という武士がその鬼の腕を切り落としたという伝説があり、この話は“戻橋”という演題で歌舞伎にもなっています。 京都では有名なところですが、婚礼儀式の時には決してこの橋を渡ってはいけないと言い伝えられています。 これは、この橋の名称である“戻り橋”という名にこだわり、嫁ぎ先から嫁が戻ってこないように言い出されたことで、今でもそこを通らず、わざわざ遠回りをするのです。 このような場所は、一条戻橋だけでなく、ほかにもみられます。 このようにお話しますと、京都人はつまらぬことにこだわると思われるかもしれませんが、ここに京都人の事を行う儀式作法の考え方の原点というべきものがあるのです。 些細なことにこだわりながら、一つの儀式を大切にしてきたのです。 

婚礼という人生の一大儀式を軽く考えず、重たく考える発想から、道順という些細なことに神経を遣い、まわりの者がいろいろと智慧を出し合いながら、時には一方通行の道路を警察署に書類を提出し、逆方向に通らせてもらうといったことまでしてきたのです(現在は警察でこういったことが許可されるのかはわかりませんが、昔は儀式だからと粋な計らいがされたようです)。 儀式に対する思い入れ、これこそ京都なのです。 京都の結納用品の専門店やデパートの婚礼用品の売り場でも、「婚礼用品は商品の性格上、返品はお受けできませんので何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます」といった返品お断りの小さな看板を見かけることがあります。 返品された商品を、わからなければよいといって他のお客様に販売するような感性を、京都人は持ち合わせていないのです。 この一条戻橋には、戦争中、出征兵士を見送るのに、わざわざこの橋まで行って、必ず戻ってきてほしいと願ったという悲しい話も残っています。 現在では、京都を訪れた人がこの橋を渡れば、川にコインを投げ入れなくてももう一度必ず京都に来ることができると言われているそうです。 

石屋のないしょ話でした・・・。