石屋のないしょ話

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お盆と殺生

京都人は、ご先祖様に対する思いが強く、今の自分があるのは全てご先祖様のお陰だと考えている人も少なくありません。 そのため、京都では仏事作法というものがしっかりと入り込んでいるのは今までの「石屋のないしょ話」でもお話しましたが、特にお盆の時には枚挙にいとまがないほどの様々な風習や言い伝え・しきたりがあります。 今月は、その一つである「お盆には虫を殺してはいけない」についてお話します。 これは京都では当たり前のことで、そこにお盆の行事の本質があるように思います。 

京都人は、子供の頃からお盆には昆虫採集をしてはいけないと言われて育っってきました。 皆さんは“おはぐろとんぼ”という昆虫をごぞんじでしょうか? 黒くて細い上品なとんぼなのですが、このとんぼにご先祖様が姿を変えられてお浄土から我が家に帰ってこられるといわれています。 京都では、このとんぼのことを“お精霊とんぼ”とよんでいます。 他の地方の人からは滑稽に思われるかもしれませんが、この“お精霊とんぼ”に手を合わせることもあるのです。 また、仏様にお水をお供えするとき、その器の中に蓮の葉や樒の葉を浮かべますが、これにも同じような意味があり、暑い夏の日に虫たちが水を飲みに来て過って溺れないよう葉に止まって水が飲めるようにと、殺生をしないために気を配り、こんなことをしているのです。 もちろん、ご先祖様がとんぼに変身するとか虫が溺れないようになど、本気ななって考えているわけではありません。 しかし、そこには京都人の優しい感性というべきものがあるように思います。 

今年もまた、ご先祖様に気持ちよくお帰りいただくために、お仏壇を綺麗に整え、提灯を吊るしたり、松明を焚いたり、きゅうりやなすびにお箸で足をつけたり、麻殻ではしご段を作ったりして、ご先祖様をお迎えするのです。 そしてそこに、その家々の独特の風習が生まれ、それが祖母から母へ、母から娘へと受け継がれていくのです。

石屋のないしょ話でした・・・。