石屋のないしょ話

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お祝い

お祝いは、大安・先勝・友引の午前中にお伺いするのがお作法であり、昼から伺うと験が悪いとまで言われていますが、昼から伺ったからといって決して験が悪いわけではありません。 今月は、なぜ午前中にお祝いに伺うのかをお話します。

もともと、結婚式そのものが、ほんの少し前までは夜に行われることが当たり前であったことは、ご年配の方なら皆さんご存知だと思います。 それなのに、なぜお祝いは午前中にと時間までしばるようになったのでしょうか? それは、先様に対する心遣い、気配りからなのです。 午前中にと限っておくことで、お祝いごとのあるお家でも、気兼ねなしにお昼から外出ができ、午前中だけの拘束ですむようにと、こんなしきたりが生まれてきたのです。 特に嫁方では、挙式前には挙式の打ち合わせだけではなく、細々としたものまでたくさん買い揃えなければならないため大変忙しく、時間がいくらでも必要なのです。 そして、そのお買い物も新生活に必要なものですから、やはり大安などの良き日に買い求めたいと思われるのも、これまた人情です。

こんなところからも、京都ではお祝いに伺ってもお部屋にはあがらず、たとえ先様に勧められてもお断りをして、玄関先で失礼するのがお作法であり、当たり前なのです。 この時、先様がこぶ茶とおまんじゅうをお出しになります。 こぶ茶は一口でも飲まなくてはいけませんが、おまんじゅうは頂かないことになっています。 おまんじゅうは最初から別の物がお持ち帰り用としてちゃんと半紙に包んであるのです。 これも時間短縮の一つかもしれません。 しかし、いくら時間短縮をしても、お祝いの品は決して他の地方のように金一封だけというものではありません。 京都の結婚祝は、金銀の水引のかかった金封に、必ず熨斗と寿恵広を添え、片木台にのせます。 そして、広蓋という漆器の盆にのせ、その上から袱紗をかけ、それを定紋入の風呂敷に包んで持参するのです。 他所では考えられないほど丁寧な形です。 これが、京都人の発送なのです。

こうして整えたお祝いの品を持参するのは、必ず午前中に、昼からでは験が悪い、とする京都のこのしきたりは、長い長い経験の中から生まれ、やがて一つの事柄でしばるようになったのです。 そこには、先様に対する気配りがしっかりと息づいているのです。 一見、不合理・不便にみえるものが、その実、大変合理的であり、また非常に便利でもあるのです。 京都のしきたりやお作法は、人々がお互いに暮らしやすくするために考案されたものばかりだと思います。

石屋のないしょ話でした・・・。